コラム

3年間の事業を終えて
●父親の家庭教育への参加促進事業、6つのステップとは?
「父親の家庭教育への参加促進事業」初年度事業では、
①家庭教育フォーラム委員会の4回にわたる研究・学習会を重ねつつ、
②先行的に全国の中学校の生徒・保護者を対象に地域性を考慮しつつ、無作為抽出で「父親の家庭教育への参加に関する調査」(13項目)を同年の秋に実施(各3000名ずつ)
③この成果を踏まえた、総括「家庭の状況と父親の今日的な課題」のとりまとめを行った。さらに、これら一連の研究・調査・学習から、
④「社会の改革と元気な家族を目指す10の提案」と、より具体的・実践的な「家庭教育ノウハウ集『おとうさんの10ヶ条』」を作成した。
 このノウハウ集を中心に1年間のアピールとして、最終的にシンポジウムを開催するための、
⑤事前勉強会に専門家を招いて、子どもと親たちの関係の問題点(例えば、慢性疲労症候群、親離れ、子離れ、次世代育成支援法と実践など)をより具体的に学習した。これら1年間の成果のうえに、
⑥シンポジウム(’04年3月3日)を「組織の中で『ダイバーシティ』が意識的に推進されつつある」との問題提起を踏まえたパネルディスカッションを行った。その中で、女性の社会進出と男性の私生活の充実は表裏一体の権利であることなどが確認された。
●「父親の家庭教育への参加」調査からみえたものは?
とくに、この6つのステップないし局面の展開の中で注目しておきたい一つは、「父親の家庭教育への参加」に関する調査である。回収率は中学生8割、保護者5割強で、昨今の行政から民間含む各種調査の低い回収状況に比べると予想を大きく上回る成果であった。しかし、本来、家庭とは夫婦・親子(父と子、母と子)・兄弟姉妹の3つの有機的関係の中で成り立つことを踏まえてみると、今回の調査でも、「一人っ子」が2割弱であることは、少子化を実証するものとしてやむを得ないが、保護者の回答は圧倒的に母親が多く、父親サイドのそれは、11.4%にしか過ぎなかった。さらに注目されたのは、父母、つまり大人と、子ども(中学生)との「気にかけている」や「相談する」ことの認識のずれ、すれ違いなどのコミュニケーション・ギャップやそれ以前の相互の思い込みの乖離 (かいり)がどうしようもないほどであることだ。  本来、子どもたちのセルフアイデンティティは、生活共同体であるはずの家庭・学校・近隣社会の中で具体的・個別的な事柄がそれなりによく(多く)知ってもらっていることが正常な姿である。しかし、この調査結果でも、とくに父親との関係ではコミュニケーション不全が半ば前提となっている(例えば、中3の子どもの進路の相談にも関わっていない父親が15%など)ことが問題である。
●課題作成と「10の提案」そして「おとうさんの10ヶ条」
こうした調査分析の結果と研究・学習の成果から、家庭教育フォーラム委員会では「父親の今日的な課題」として、次の6点を浮き彫りにした。 ①まずは家庭から「生きる力」、「生活力の回復を」
②家庭の基盤になって「社会力」の向上を
③父親の家庭での役割認識の向上と具体的な行動を
④家庭で目線を合わせたコミュニケーションを
⑤父親は仕事や人生の意義を語れ
⑥父親のワークライフバランスを実現する企業文化と仕組みを
このような課題をより具体的に、より意識的に、家庭・家族から地域へさらには、さまざまな世代(異世代)へと実践的に交流しながら展開することから、社会をよくしようとすることができる。その原点である“元気な家族”を目指していくための「10の提案」と家庭教育ノウハウ集「おとうさんの10ヶ条」がまとめられた
〔社会の改革と元気な家族を目指す10の提案〕
  1. 挨拶しよう 挨拶は家族の元気を知るバロメーター
  2. ほめよう  誉めることは喜びを広げ、努力の源泉
  3. 誇りを語ろう 自分の人生観、仕事の意義を家族に語ろう
  4. 食卓を囲もう 年中行事を企画しよう
  5. 会話を楽しもう パートナー、子どもに
  6. 自然と遊ぼう 手を使い、汗を流すことが命の源泉
  7. 地域社会に出て行こう 「社会力」を育てよう
  8. 生活と仕事のバランスを築こう
  9. 人間尊重経営を本気で築こう
  10. 「高質社会」の重視に向けて改善・改革に取り組もう
〔家庭教育ノウハウ集「おとうさんの10ヶ条」〕
  1. 朝起きたら挨拶を交わそう
  2. パートナーのよいところをほめよう
  3. 子どもの言葉を大切にしよう
  4. 子どもの長所を把握しよう
  5. 叱り方を工夫しよう
  6. 自分のこだわりを話そう
  7. 子どもに仕事の意義を話そう
  8. 家族で食事を楽しもう
  9. パートナーの相談には応じよう
  10. 子どもとともに社会体験を心がけよう
(日本家庭生活研究協会副会長 永池 榮吉)
(社)日本家庭生活研究協会の16年度では、「男性の多くは家庭生活への参加意識は高いが、実現方法や職場関連の課題が山積しているため、現実には参加できないでいるのではないか」という仮説をたて、事業を実施した。
その一環として行なった優良事例募集広報キャンペーンでは、父親のワークライフバランス全国キャンペーン2004 「お父さんへのメール・手紙大賞と子どもたちへのメール・手紙大賞」と題し、広く日本全国の小中学校に対し、5000枚の広報チラシやポスターの掲示、団体への依頼メール送付などを使い、父子間のメールや手紙をおくってもらうよう呼びかけた。キャンペーンでは日常なかなか表現することのない父子の心情を文章化することで、お互いを客観視でき、父子間の距離を縮め、家庭を大切にする父親の増加を促進したといえる。さらに多くの企業や団体から事業への賛同、協力、協賛、後援を得ることができた。これは本事業の意義が認められ、父親のワークライフバランスを促進する企業・社会風土が醸成されてきたといえる。父子からのメール・手紙を全国公募した結果、1000通を超える応募を得た。その中から優秀作品を選び、メディア編集長を委員長とした審査委員会で最終検討を行い、40通の入選作品を選び、小冊子にて公表した。冊子には企業の経営者のワークライフバランス促進のコメントやワークライフバランスをとったお父さんたちのケーススタディを掲載している。
最後に、お父さんのためのワークライフバランス・ワークショップでは、やりがいのある仕事と充実した私生活のバランスを取るために必要な自身のあり方について気づく機会となったという声をたくさんいただいた。ワークショップ参加者には、子どもを持つ父親以外にも参加希望者が多く、特に企業や労働組合でワークライフバランスを促進したいと考える担当者やメディアの方々、NPOで子育て支援や男性支援をしている方などが目立っていた。 今後、男性の働き方を見直し、地域や家庭において家庭のもつ意味を問い直し、よりよい高質な社会づくりが進んでいくことを願っている。
(日本家庭生活研究協会 常務理事 元石 一夫)
昨今「ワーク・ライフ・バランス」と言うと、ともすればジェンダー論の延長上で議論されがちです。ワーク=仕事、ライフ=生活という捉え方で、男性の「労働時間を減らせ!」とか、「もっと生活時間の充実を!」とか、男女平等推進活動の一環のようなイメージで捉えている方も多いのではないでしょうか。そこで、もう少し大きな世界で考えることを提案したいと思います。「男女」という性別役割分業的な問題ではなく、「個人」という捉え方です。
個人が人生を生きていく上で一番大切なのは、ひとりひとりが「個人としてどのように幸せな人生を築いていくのか」。そして、人生を生きる中で「社会とどのように関わっていくのか」。つまり、ワーク=社会、ライフ=個人として捉えてみる。そうすると、自分自身と社会との関わりがさまざまな形で見えてきます。 たとえば、あなた自身を1本の木になぞらえてみましょう。木には、地上の幹(あなた自身)=他人の目に見える部分と、地面の中で生えている根=他人の目に見えない部分があります。そして、幹からは多くの枝が生えています(社会との関係性)。その枝は、家族、友人、恋人、地域の仲間など、種類や数は人によって違いますが、共通しているのは、だれもが個人として社会とさまざまな関わりをもちながら生きているということ。そして、それぞれの枝と幹との間でいい関係性を築き上げていくことが個人=あなた自身の幸福につながります。 このように考えていくと、「ワーク・ライフ・バランス」は仕事と私生活をバランスさせるといった単純な問題ではなく、個人個人が自分の幸せをどのように追求していくのかという壮大なテーマであることがわかります。そして、「自分の幸せ」の実現に向けた第1歩は、まず自分自身と向き合うこと。自分自身のことは、案外自分ではきちんと理解していないもの。過去から現在まで、リアルな自分とじっくり向き合う時間が必要です。 その上で、そうした自分が社会の中でどんなステーク・ホルダー(利害関係者)と関わっていくのか、また、さまざまなステーク・ホルダーとの間で、幸せな関係性をどのようにつくりあげていくのか。 こうした枠組みで考えていくと、「個人の幸せ」の築き方が見えてくるのではないでしょうか。
(日本家庭生活研究協会 理事 西田陽光)
少子高齢社会が急速に進展する今日、否応無しに、男性も女性もワークライフバランスが要求されている。 以前から、私は「子育て」や「介護」の課題は女性問題ではなく男性問題であるとの自説を掲げていた。何故ならば、産業社会の中心で物事の判断や決定の多くは男性達が行っている場合が多いからである。家事や子育て、介護に至るまで、多種多様な雑事の積み重ねによって日常生活が成り立っている実態に疎い男性が産業社会の支配者でいる限り、トンチンカンな判断が下されるであろうことは容易に予測できる。子育てや介護の課題を「女性問題」として片付けている限り、少子化現象がとどまることはないであろう。 「いつまでも、イキイキと楽しく暮らし続けたい」と、誰しもが願う。ワークライフバランスは時間の割合の問題だけではなく、質や働き方が問われてこよう。まさしく、人生設計そのものに関わってくるテーマであり、己の人生の主役を演じていく事になる。従って、自立性、自発性に重心を置く自分軸が要求される。 しかし、残念な事に、経済活動に重きをおく社会の文化やシステムは、個人や家庭生活の大切さを封じ込む傾向にある。スピードやサイズを競うゲームは判り易く、勝ち負けを明解にできるが、質や意味合いを問う世界は価値観も多様であり、評価もしにくい。
敗戦後、食べ物や住む所を失った我が社会は、何はさて置き、経済成長を行動指針として、これらの物資を賄なうために、夫々が一生懸命働いてきた。いつの間にか、目標を達成したことも気が付かず、ハードルを高めながら経済成長に精を出し続けているようだ。十数年前から、多くの生活者はかつての“物の豊かさ” ではなく“心の豊かさ”を求めだしているが、いまだブレーキを踏み切れずにいる。 そもそも、何故働くのか、何故お金を稼がなくてはならないのか?1日24時間の中で、稼ぐための働く時間はどのくらいがいいのか?いずれにしても、全体からみて部分に過ぎない事を覚めた目で見てみる時期と言えよう。 折しも、長寿社会を迎え、個人、家庭や地域社会の有り様も、大きく変容してきた。価値観や暮らし方も、どんどん多様化していく。今までのような「家庭か仕事」「男性対女性」とか「生産者か消費者」と言った二元論的な対立構想で思考するのではなく、繋がりの中での考察が大切であろう。暮らしは総合的なものであり、今日の私達の暮らしは、様々な人、組織の支えや多くの制約の中で成り立っていることを基点として、個々人の「ワークライフバランス」を考える必要があろう。 こうした新しい発想の下の「ワークライフバランス」では、今までの「男性のワークライフバランス」が手本にはならない事は明解である。
〈日本家庭生活研究協会理事 澤登信子〉
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